ゲームとテクノがスキ!スペシャル対談 前篇

2020年2月16日に行われた企画イベント「ゲームとテクノがスキ!
ホソイバンドにてリードを務めたバイオリンのMariNaさん、音楽集団ViVi BaBooよりギターの鷹股慎さんとの対談を行いました。

Interviewer:阿嘉彩(ViVi BaBoo)

曲そのものでチャレンジしたい

彩:
今回の企画は初のインストライブだったそうですね。意外でした。
細井:
そうなんです。そして、今回はハコ(「小岩オルフェウス」)だけおさえていて、何をやろうかは後から決めたんです。ViVi BaBooさんには話だけはしていて…。
慎:
そうですね。2年前にはハコと共におさえられていました(笑)
細井:
インストのライブにどうやったらお客様に来てもらえるか、わからなくてずっと悩んでいたんです。やりたい気持ちはずっとあったんですけどね。そんな時、僕の盟友であるヨナオケイシさんが「THE SHOOTING!!」っていうシューティングゲームしばりのイベントをやっていて、成功をおさめていたのを見て「こういうやり方があるのか!」と思ったんです。
ゲームと音楽を絡めていて、単純に「インストの曲をやります」というのではない。
僕だったら、「ソニックウィングス」の有名な曲をタイトルにすることで注目してもらえるのではないかというのは、そこで考えました。
いつもは、ボーカリストに頼っている自覚があったんです。だから、今回は楽器のみに敢えてしたくて。楽器のみのステージで映えるように、慎さんのギター、MariNaさんのバイオリンの2本の柱でやりたいということでお声がけしました。
彩:
最初に聞いて、お2人はどう思われましたか?
慎:
僕は楽しみでしたね、純粋に。細井さんの数ある楽曲の中で、歌モノはこれまでも弾かせていただいていて、今度はインストだ!と、気持ちが盛り上がりました。
細井:
これまでのスリーマンライブや、中原 涼さんのワンマンライブなどとは、毛色が全然違いますよね。
慎:
そうですね。やってみて思ったのは、細井さんの曲はバッキングの方が難しいっていうことです(笑)
メロディーは頭に入ってきやすいんですけれど、バッキングの方がコードやリズムが難解に感じました。
細井:
弦楽器と鍵盤の違いはスケールによって弾きにくさが違うということですよね。特に僕の曲は転調が多いし。弦楽器のみなさんは、随分やりにくかっただろうなと思います。
MariNa:
そうですよ!「コノヤロウ」と思いますね(笑) フラットの音とか、鍵盤で言えば黒鍵を使う音が5個以上あると「1音上げればいいのに~」と思います。
歌がある曲では、歌い手さんのキーが限られているので、私たちにとって弾きにくくても仕方がないけれど、インストだよーって。
細井:
でもね。面白いのが、そうやってクレームがくるわけですけれど(笑) じゃあ別にキー変えていいよって言っても「いや、そのままでいいです」って言われるんですよね。
MaiNa:
まぁ、やりますけどね(笑)

どうする!?転調問題

慎:
バイオリンは何のキーが弾きやすいの?
MaiNa:
A系が弾きやすいかな。
細井:
それはギターも一緒かな?
慎:
A、E、G、D辺りですかね。
MaiNa:
E♭くらいだったらいいかな。G♯マイナーとかいくつか嫌なキーがあります。
あと、自分が自分に惑わされるキーがあるんですよね。一番脳内を頑張らないといけないのが「シュガーソングとビターステップ」というアニソンなんですけれど、それがG♭メジャーですね。
慎:
要はF♯のキーということだよね。
MaiNa:
そうですね。そして、このキーの時は自分がドレミで歌っているのがどっち!?って混乱するんです。
細井:
僕は基本的に♯は全部嫌い(笑)
鍵盤楽器はずっと独学で、始めは久石譲さんの曲ばかりで練習していたんです。あの方の曲はCマイナーキーが多いんですよ。
慎:
へぇ~!
細井:
E、A、Bに♭がつく。それはもうすごい感覚的に弾けるんですけど、♯が一つついた途端に考えながらじゃないと弾けなくなっちゃう。ソロとか特にダメですね。
MaiNa:
バイエルから練習したら結構CとかG♯は楽になりますよ。
慎:
ソルフェージュ的なね。
細井:
F♯メジャーマイナー、Bメジャーマイナーも、一瞬考えないと鍵盤抑えられないんです。Cマイナー、E♭、Aマイナーメジャー7とかは、目をつぶっていても弾けるのに。
彩:
弾きやすいかどうかもありますけれど、展開のしっくり度とかも感覚としてありそうですよね。
MaiNa:
そのキーが持つ色というのが絶対的にあるので、ほんとはクラシックでも嫌なキーはあるんですけれど、そのキーで(譜面を)書くんですよ。だから、歌の人に出会うまでは、キーを簡単に上げるとか下げるとか意味がわからなかったんです。
慎:
そうだよね。それがその曲を表現するキーだし、「変ホ短調」とか、曲名についていたりするわけだから。
細井:
平均律がなかった時代だから、転調しただけで雰囲気が変わっちゃうよね。
慎:
そのキーで成立する曲ですもんね。
MaiNa:
一番明るい曲はD♯とか、そのキーに意味があって、それぞれの曲に対して調の意味付けがされているので、それを変えてしまうことに驚きました。
慎:
歌の時には「ちょっと高音域が辛いから半音下げて」という感覚だよね。
細井:
キーを変えるのは、平均律が浸透した近代クラシックでもあるんですか?
MaiNa:
歌の人しかないです。それでも「原則は技術で何とかせい!」という世界ではあります。ただ、女性キーの曲を男性が歌うとか、その逆の場合のような大きく差がある場合にはもちろんキーを変えます。クラシックでも楽器を弾く人よりも歌う人の方が転調に抵抗がないんじゃないですかね。
慎:
例えばレコーディングで録音した後、ライブの時にはやはり半音下げるということがありますよね。
MaiNa:
大抵レコーディングって曲ができたてでやるじゃないですか。歌い込む前なんですよね。その後ライブ用に練習して、しっくりくるキーになるということがあるし、ライブではその曲だけではなく、30分以上、それ以外の曲も含めて歌うので、それを踏まえて歌える範囲に下げるということもありますよね。
彩:
今回のゲースキでは、歌の曲が少なかったのでキー問題は起こらなかったですよね。
ところで、細井さんはバンドメンバーに対して、アレンジした時にどんな期待があったんですか?

バンドで映える音に!

細井:
まず前提として、元々がゲームの曲で、音源が独特な音がするものに対して最適化して作っている曲なので、そのままバンドでやってもつまらないと思ったんです。でも、そこをうまくやっているのがO.T.K.さん。原曲のイメージを変えずに音をうまく足して作られているのですが、僕にはその器用さはない。だから、今回はバンドで映える曲に一からアレンジしようと思っていました。
今回のようにレトロゲームを題材としてやろうとなった時に、当時の、つまり過去の栄光だけでお客さんを呼ぼうというのはちょっと違うと思ったんです。自分の歴史として実績があるのはアピールしていいいと思うのですが、今ライブをやるのだから、今の自分の姿を見せないといけないし、今の自分の感性やスキルを使って今のソニックウィングスを創らないと、と思っていたんです。
あとは、MariNaさんもViVi BaBooも慣れ親しんだ人達で癖もわかっていたので、どうしたらそれぞれちゃんと美味しいところがあって、生演奏として映えて、お客さんが喜んでくれるかというのを意識しました。
彩:
例えばMariNaさんのバイオリンについてはどんな特徴を意識されたんですか?
細井:
そもそもリード楽器として一番目立つし、自分の曲では外せないと思っていました。そして、美味しいメロディーをバイオリンに弾いてもらうのが第一で、奏法として綺麗に聴かせられるようなフレージングになること。
MaiNa:
今回面白かったのは、最多3リードで、ギターの池田さん、慎さんと絡む時や、細井さんと絡んだりする中で、ずっとリードなんだけど、その中で表のメロディーにいったり、裏のメロディーにいったりしたことです。バッキングもやる機会があったので、色んなバイオリンの姿を見せることができたと思いました。
慎:
MariNaさんと一緒にやるところで、ギターはルート5度でザンザンザンザンと刻むところでバイオリンも同じように演奏するところがあるんだけれど、そこがすごく気持ち良くて、リードだけではなくて、そういう部分も楽しめましたね。
MaiNa:
私も、元々メロディーの後ろで刻むバッキングは好きです。
細井:
僕はバイオリンのハーモニーがすごい好きで、意外と合うんですよね。デジタル的なサウンドに。
MaiNa:
特に、今回はエレキバイオリンを使ったので、程よくエレキギターに寄り添いやすい音だったんじゃないかなと思います。
細井:
オーストラリアステージのメロディーでバイオリンとギターのハモリがすごくかっこよかった!
慎:
あれ、弾きにくいんですけどね(笑)
MaiNa:
うん(笑)
細井:
やっぱり、ギターの人が曲を作るとああいう運指にはならないのかな?
慎:
そうですね。あんまりならないと思いますね(笑)
MaiNa:
細井さんは、今回は結構もう付き合いも長くなってきたこともあるのか「好きにやってくれ」っていうのがどこかに※印で書いてあるっていうことがありましたね。
細井:
僕ね、バンド経験がなかったんですよ。若い頃とかに。ひたすら家で打ち込みで制作をしているテクノカット坊やだったので(笑)
慎:
テクノカットって…(笑)

曲の指示と解釈。どこまでどうする?

細井:
何回かバンドを一緒にやらせてもらってますけれど、未だにどうディレクションしたらいいのかわからないんです。どこまで細かく指示していいのかがあって、譜面の出し方ひとつとってもそうなんですけど、例えばメロディーは書くとしても、ベースラインをどこまでちゃんと譜面で出すのかみたいなところもあって、どこまで丸投げして、どこまでこちらが用意していいのか模索しながらなところがありました。
MaiNa:
私の場合は、書いていないところも弾くこともありますし、書いてあっても、例えば譜面上で和音で「ファ、ラ」だったとしても、ここは「ラ、ファ」の方がいいなと思ったら変えたりアレンジはしました。後は、本番で気が乗ってくると裏ソロみたいなものも弾いちゃいました。
慎:
細井さんが書いてくれた譜面に、コードはCなんだけど、音譜にはソ、ド、ミが書いてあって、それは間違いではないのだけれど、大抵の人はルートはCで、Cから始まるド、ミ、ソを弾くんですよね。そこを俺は忠実に下のGを弾きましたよ(笑)
細井:
意図があるのかな?と思って?
慎:
そうですね。ちょっとヘビーにしたかったのかなと思って。
僕も曲は書くんですけれど、ほんとよしなにです。このフレーズはやって欲しいというところは音譜に書くけれど。例えば、ベースだったらここはスラップでとか。それこそもう字で書いたりします「スラップでバインバイ~ン」とか。ドラムだったら、「ここで三連系」とか、「早いタム回し」とか。バイオリンだったら早い駆け上がりフレーズは書くとか。
MaiNa:
キメとかもね。
慎:
そうだね。
細井:
今回、ドラムも迷ったんですよ。フィルを一切書かなかったんです。例えばソニックウィングスの「京都ステージ」でループする時のあのわけのわからないフィルとか。あのどんなグルーブにも合わないやつね。三連でも他でもない。
あれも、元々のゲームの音源でもクオンタイズしなくて、微調整してあのタイミングにしたんです。あれが一番自分の中で気持ち良かったから。
慎:
ああいうのは、ドラムのハセポンは大丈夫だと思いますけどね。それで拍にはまらないあの音を完璧に再現するから、俺が次の拍に入れないっていうね(笑)
細井:
一回ね、デビュー25周年ライブの時に、ドラムの大崎由希ちゃんに「この曲ってシャッフルなんですか?それともイーブンなんですか?」って聞かれたことがあって、どっちかじゃないとダメなのか~と思ったんです。打ち込みする人って、よくやるんですけど「スウィング50%」とか。
慎:
どちらかに寄せた方がやりやすかったんでしょうね。
彩:
それってつまり、意図通り聞こえているということですよね。
慎:
今回のゲースキの「つきのさかな」もそうだよね。
細井:
ギターとかメロディはイーブンなのに、パーカッションは跳ねてるとかね。
慎:
全部のスウィングのパーセンテージを合わせるのは面白くないですからね。
MaiNa:
ゆらぎは必要ですよね。
細井:
そう。だから自分が生のバンドの経験がないから、その生っぽいゆらぎをどう打ち込みで表現するかを求めてきた結果、トラック毎にスウィング率を変えることに行きついたんだと思うんですよね。
慎:
生バンドでは、まずはドラムが細井さんの意図を聞いて、それで我々がドラムのグルーブに合わせるということになりますよね。
MaiNa:
数値で見えちゃっているからこそ、どこかにいかなくちゃいけないのかという疑問がわくのだと思いますが、演奏者は「スウィングです」とか「シャッフルです」とか言われれば、多分、譜面に合うスウィングとかシャッフルをそれぞれの捉え方でやるから、一緒のことをやっているつもりでもちょっとズレて、自然にゆらぎが出るんですよね。
細井:
そうですよね。そこが面白いところですよね。譜面に書いていないことをみんながどう解釈するかが影響しますね。
慎:
あまりにもその差が大きいと、ゆらぎではなくて、ただグルーブが合っていないということになっちゃいますけどね(笑)
彩:
こればかりは言葉で説明しきれないんですかね。
MaiNa:
言葉は難しいですよね。ベテランの人でも、これはシャッフルなのかスウィングなのかで喧嘩するくらいだから。そんなことで喧嘩する~?とは思いますけどね(笑)
細井:
僕もシャッフルとスウィングはわからないなぁ。
MaiNa:
個人的には液体が入っているものを揺らした時に、スウィングはしぶきが跳ねない。シャッフルは跳ねる、っていう感覚です。
細井:
そう聞くと、多分、僕はシャッフルよりスウィングが好きなんだな。
楽曲の「音速娘」はわかりやすく跳ねてますけれど、僕の中では珍しいですね。
MaiNa:
楽譜で言えばどちらでも付点がつくじゃないですか。それの付点側にスタッカートがついている感じですね。
細井:
わかる気がする!結局、そういう譜面で表し切れないファジーな部分をどう意思疎通できるかっていうのが成功の要だなと思っていて、ViVi BaBooやMariNaさん、中原 涼さんのように一緒に積み重ねてきた人達とは阿吽の呼吸でやれている気がします。